
日本人にとって身近な食べ物である蕎麦は、抗酸化作用やアンチエイジング効果なども得られることが話題になり、ヘルシー食品として男女を問わず人気が高まっています。それに呼応するように新規規開業の蕎麦屋も増える傾向にあります。
そこで今回は、蕎麦屋の開業を検討している方のために、蕎麦の実の構造から製粉法、蕎麦の打ち方、蕎麦の種類など、基本的なことについて詳しく説明していきます。
そもそも蕎麦とは?

タイトルを見て、なぜ「そば」ではなく「蕎麦」という難しい漢字を使うのだろうといぶかしく思われたかもしれませんが、漢字を使うのには理由があります。
そもそも「蕎麦」とは、玄蕎麦(げんそば:黒い殻をかぶったソバムギの実)を挽いた粉を主原料とする食品のことです。ソバムギの実は三角のとがった形状をしていることから、物の角を意味する「稜(そば)」が語源とされています。
一方の「そば」は、中華そばや焼きそばなど、小麦粉を原料とする麺料理全般に使われる名称です。現在はそれほど厳密に使い分けることはありませんが、ここでは玄蕎麦を原料とする日本蕎麦について説明しますので、漢字を用いることにします。
日本で蕎麦が食されるようになったのは奈良時代からとされています。当時は、蕎麦の実を粥状に炊いたものや、実を砕いてお湯でこねる「蕎麦がき」にして食べるのが一般的でした。
今のように、蕎麦粉を水で練って延ばしたものを細く切る「蕎麦切り」が始まったのは江戸時代に入ってからのことです。それも将軍への献上品とされるような高級な食べ物で、日常的な麺料理として一般に普及するのは江戸後期に入ってからとされています。
製粉のしかたによる蕎麦の違い

蕎麦とひと口に言っても、玄蕎麦の製粉のしかたによって風味や食感、のど越し、栄養価などが大きく異なってきます。その違いを知るためには、初めに玄蕎麦の構造を理解する必要があります。
〈玄蕎麦の構造〉
- 外皮……いちばん外側にある黒い殻で、果皮、外皮、そば殻ともいいます。
- 種皮……実を包む皮で、甘皮ともいいます。抗酸化作用の強いポリフェノール(ルチン)が豊富で、たんぱく質や脂肪、蕎麦の香り成分も豊富に含みます。
- 胚乳部……蕎麦の実の大部分を占め、ほとんどがでんぷん質(炭水化物)です。
- 胚芽……蕎麦の実の中心にあり、種皮とともにたんぱく質や脂肪などの栄養成分を多く含んでいます。
蕎麦の製粉法には「ロール製粉」と「石臼(いしうす)製粉」の2通りがあり、現在はロール製粉が主流になっています。
ロール製粉
玄蕎麦から殻を取り除いた実を「抜き」といい、取り除く工程で割れてしまった実を「割れ」といいます。
この抜きと割れをロールとロールの間に落とし込み、挽砕して粉にします。その粉を網目の異なるシフター(ふるい)にかけて成分組織の異なるものを選り分ける方法です。
一番ロールを通り、シフターを通って得られた粉を「一番粉」、一番ロールで粉にならず、次のロールとシフターで粉になったものを「二番粉」、ここでも残って次のロールとシフターで粉になったものを「三番粉」といいます。
このあとに「四番粉」を取ることもありますが、一般には三番粉までです。一番粉から三番粉までのそれぞれの特徴をあげてみましょう。
- 一番粉(内層部)……抜きと割れを粗挽きした段階でシフターにかけられたもので、ほとんどが胚乳部です。でんぷん質が主体でたんぱく質が少ないため、粘りが少なく、蕎麦を打つときつながりにくい粉ですが、色が白く、蕎麦特有の甘みと香りがあります。
- 二番粉(中層部)……一番粉にならなかった胚芽部や胚芽が砕けて粉になったもので、風味と香りがよく、色も浅黄色を帯びています。炭水化物とたんぱく質も含まれています。蕎麦屋で使用されることの多い並み粉(標準粉)の原料となる粉です。
- 三番粉(外層部)……二番粉を選り分けた残りの部分から挽砕される粉で、種皮も一緒に挽き出されるため濃い色をしています。たんぱく質が豊富で、蕎麦本来の香りあり、蕎麦打ちもしやすい粉ですが、種皮が混じっているため繊維質が多く、味やのど越しが悪く、食感も劣ります。
石臼(いしうす)製粉
石臼挽きとは、上臼と下臼の2段になっている石臼を回して粉にする方法です。上と下がすり合わさる面に細い溝(ふくみ)が刻まれていて、上から流し込まれる玄蕎麦が石の重みとふくみですりぶされる仕組みになっています。昔は手回しか、水車で回転させていましたが、現在は電動式が一般的です。
石臼製粉のメリットは、石と石のすり合わせなので回転が遅い分、機械より摩擦熱が低いことです。高温にならないため粉がしっとりしていて、蕎麦の味やコク、香りを最大限に引き出すことができます。
デメリットとしては、回転が遅いため製粉できる量に限りがあることと、臼のふくみがすり減りやすいため、目立てなどのメンテナンスが必要な点があげられます。
打ち方による蕎麦の違い

蕎麦のおいしさの決め手となる要因に「加水率」があります。加水率とは蕎麦粉を練るときに加える水の割合のことで、蕎麦の打ち方が「機械打ち」か「手打ち」かによって加水率が異なります。
機械打ち
蕎麦粉をミキサーで攪拌するとき水を加えすぎると、あとで延ばすときに生地同士がくっついてきれいに延ばすことができません。そのため、加水率を低くする必要があります。
また、生地を延ばすときにローラーにかけると強い圧力で均一に押しつぶされるので、小さな空気穴ができません。空気穴がないとゆでる時間が長くかかります。蕎麦は湯に浸かっている時間が長いほど味が損なわれます。
しかし、空気穴はできませんが、蕎麦粉が早くきれいに麺体にされるので、大量に生産できます。また、ゆでる時間さえ決めておけば、だれでもゆでることができます。ゆでる時間が長いのは伸びるのも遅いので、天ぷら蕎麦やキツネ蕎麦のような種物に向いています。
手打ち
蕎麦粉を手で打つ場合は、水を多めに加えないと硬くて作業ができません。また、圧力は腕と麺棒だけですから、時間をかけて練り込む必要があります。手打ちは「押して引く」の繰り返しなので、生地の間に無数の空気穴ができます。それによってゆで上がりが早く、蕎麦特有の「コシ」とおいしさが生まれます。ただ、伸びるのも早いので、種物ではなく、盛り蕎麦のほうが適しています。
どの蕎麦をメニューに取り入れるとよい?

製粉方法や打ち方について見てきましたが、蕎麦のおいしさを決定づけるのは結局「蕎麦粉の品質」ということになります。品質のよい蕎麦とは、つなぎ(小麦粉)をなるべく使わない蕎麦のことです。
「十割蕎麦」「ニハ蕎麦」といいますが、十割(じゅうわり)とはつなぎをいっさい使わずに蕎麦粉だけで打ったもので「生粉(きこ)打ち蕎麦」ともいます。ニハ(にはち)は、蕎麦粉8に対して小麦粉2の割合で打った蕎麦のことです。
今でも蕎麦屋さんの店先に「生蕎麦」と染め抜かれたのれんがかかっていますが、これは「きそば」と読み、十割蕎麦を使っていることをアピールする意味があったとされています。ちなみに、ゆでる前の生蕎麦は「なまそば」と読み、同じ文字ながら読みも意味もまったく異なります。
十割蕎麦がおいしいといわれる理由は、混じりけがなくて純粋に蕎麦の味と香りを楽しむことができるからです。しかし、つなぎが入っていなくても、蕎麦粉自体の質がよくないものは、それなりの味にしかなりません。たとえば、繊維質を含む蕎麦粉が十割の場合は、繊維質はつなぎの役割を果たしますが、必要以上に混入すると味ものど越しも悪くなってしまいます。このように十割蕎麦だからおいしいとは限りません。
大事なのは、繊維質が少なくて味も食感もよくなる高品質の蕎麦粉を使うことなのです。蕎麦粉の見分け方については、取引をする製粉会社を決めて担当者から指導を受けるといいでしょう。
まとめ

いかがでしょうか?
一般の蕎麦屋さんは、製粉会社が販売する蕎麦粉を購入して蕎麦を打ちます。蕎麦打ちは、機械打ちが大半で、手打ちは「1日〇食」と限定で提供するところが多いようです。手打ちと機械打ちで味が大きく変わるということはありませんが、お客様の満足度はやはり手打ちのほうが高いようです。手打ち蕎麦の修業をしたいという場合は、手打ち蕎麦雇用教室に通う方法もあります。