
2018年に改正された「障害者雇用促進法」が施行されたことを受け、企業だけでなく飲食業界でも積極的に障害者を雇用する傾向が強まっています。障害者の方に仕事を任せても良いのだろうかというネガティブなイメージをもってしまいがちですが、得意分野では優れた能力を発揮し、戦力となって活躍している人がたくさんいます。
そこで今回は、障害をもつ人を雇用するために理解しておきたいことや求人のしかた、雇用した事業主に支給される助成金などについて詳しく見ていきましょう。
障害者雇用について知っておこう

「改正障害者雇用促進法」では、障害のある人が自分の能力に応じて一般の人と同様に働ける社会の実現を目指し、事業主に対して障害者の雇用を推進しています。この法律における障害者とは、「身体障害、知的障害、精神障害、その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な者」とされています。
それぞれ具体的に見てみましょう。
身体障害者 | 視覚、聴覚、音声機能、手や足、内臓機能(心臓・呼吸器・肝臓・腎臓など)に障害がある人。症状の程度によって重度(1、2級)、中度・軽度(3~6級)と区分されます。福祉事務所に申請し、審査に通ると「身体障害者手帳」を取得できます |
知的障害者 | 読み書きや計算などの知的行動に支障があり、精神保健福祉センターなどで知的障害があると判定された人。福祉事務所に申請し、審査が通ると「療育手帳」を取得できます。地域によっては「緑の手帳」「愛の手帳」という名称が使われているところもあります。 |
精神障害者 | 発達障害(自閉症スペクトラム、ADHD、学習障害)、うつ病、統合失調症、てんかんなどがある人。福祉事務所に申請し、審査が通ると「精神障害者福祉保健手帳」を取得できます。 |
その他 | 難治性疾患のある人や高次脳機能障害のある人。障害者手帳はありません。 |
障害者雇用の助成金や報奨金制度について

何らかの障害のある人を雇用する事業主に対して、さまざまな助成金や報奨金制度が設けられています。その一部を紹介しましょう。
いずれも支給要件は、「雇用保険の適用事業所であること」と「ハローワークまたは民間の職業紹介事業所の紹介によって雇い入れること」とされています。なお、短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満のパート・アルバイトを指します。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
身体障害者、知的障害者、精神障害者を雇用し、65歳以上に達するまで継続して雇用することが見込まれる事業主に対し、下記の報奨金が支給されます(従業員50人以下の小売業・飲食店の場合)。
- 短時間労働以外の労働者……第1期~4期まで各30万円(計120万円)、助成対象期間2年
- 短時間労働者……第1期~4期まで各20万円(計80万円)、助成対象期間2年
特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
障害者手帳をもたない発達障害や難治性疾患のある人を、常用労働者として雇用する事業主に対して助成金が支給されます。この場合は、雇い入れた障害者に対する配慮事項などについて報告しなければなりません。また、雇用してから約6か月後にハローワークの担当者が職場訪問を行うことになっています。なお、障害者手帳を取得している発達障害の人は、上記の「特定就職困難者コース」の対象となります。
- 短時間労働以外の労働者……第1期~4期まで各30万円(計120万円)、助成対象期間2年
- 短時間労働者……第1期~4期まで各20万円(計80万円)、助成対象期間2年
障害者短時間トライアル雇用奨励金
発達障害などの精神障害のある人に対して期間を定めて試行(トライアル)し、その人の適性や業務を遂行できる可能性を見極めることで、1週間の所定労働時間を20時間以上に広げることを目的としています。最初は3か月~12か月以内の試行期間で、1週間の所定労働時間は10~20時間の間から開始します。
- 奨励金……1か月最大2万円(最長12か月)
障害者雇用の助成金・報奨金制度が受給できない事業主
このような助成金・奨励金制度には、給料の一部を国が負担するという意味合いがあり、最も利用されることの多い支援金です。しかし、障害者を雇用すればだれでも受給できるというものではなく、次のいずれかに該当する事業主は対象外となります。
- 不正受給をしてから3年以内に支給申請をした事業主
- 労働保険料を納入していない事業主
- 支給申請日の前日から起算して1年前の日から前日までの間に、労使関係法令の違反があった事業主
- 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業を行う事業主
- 暴力団関係事業主など
奨励金制度は、このほかにも「障害者初回雇用奨励金」「障害者職場定着支援奨励金」などがあります。詳細は最寄りのハローワークに問い合わせてみてください。
障害者を雇用する際のルールは?

改正された障害者雇用促進法では、障害者を雇用する事業主が、募集・採用から定年までの雇用期間において適切に対処するための指針として、「障害者に対する差別の禁止」と「合理的配慮の提供義務」を定めました。
「障害者に対する差別の禁止」
賃金や福利厚生、教育訓練その他の待遇について規定したもので、具体的な禁止例として以下のようなことがあげられます。
- 障害者を理由に賃金を低く設定する、昇給・昇進をさせない、手当を支給しないなどの差別的措置を講ずること。
- 研修や現場実習(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を受けさせない。
- 解雇の基準を満たす労働者の中で、障害者を優先して解雇の対象とすること。
「合理的配慮の提供義務」
知的障害や精神障害のある人には、それぞれ特性があります。たとえば、発達障害のある人は同時に複数のことを処理することが困難であるとされま。よって、「それを早く洗って、あれを片付けて」のように、一度に2つ以上のことを指示されると、混乱してパニック状態になることがあります。また、「それ」「あれ」などの指示語や、「早く」などのあいまいな表現は理解できない場合があります。
そのような人に対しては、指示は1つずつ、「それ」ではなく「その皿を」、「早く」ではなく「1分で」のように具体的に伝えることが大切です。このように、障害の特性を理解し、事業主にとって過剰な負担にならない程度に配慮することを「合理的配慮」といい、障害のある人が自分の力を主体的に発揮していくことを目的としています。
飲食店でも障害者雇用を

障害者を雇用し、戦力となって活躍してもらうには、その人の得意なことと苦手なことをきちんと見極めて、適性に合った仕事を担当させることです。たとえば、物事に臨機応変に対応することは苦手でも、マニュアル通りに進める仕事はだれにも負けないほど完璧に仕上げる人がいます。このような人にとって接客は難しいかもしれませんが、調理補助や清掃の仕事は任せることができます。反対に、1つのことをコツコツとやり遂げるのは苦手でも、好奇心旺盛でタレント性が豊かなADHDの人などは接客に向いています。
現に、障害のある人を採用して業績を伸ばしているお店は少なくありませんし、スタッフ全員が障害をもちながら味とサービスで人気を集めているレストランもあります。
障害者雇用を考える場合は、ハローワークか地域障害者職業センターに相談しましょう。両者は密接な連携態勢のもと、障害者本人と事業主に対して就労支援サービスを行っています。
ハローワークインターネットサービス:https://www.hellowork.go.jp/index2.html
地域障害者職業センター:http://www.jeed.or.jp/location/chiiki/
まとめ

いかがでしょうか?
障害者雇用促進法は、ほぼ5年ごとに内容の見直しが行われ、支給要件や助成金の上限額がよく変わります。そのため、いざ活用しようとしたときに支給対象から外れていて、活用できないということもあり得ます。そうしたことを避けるためにも、ハローワークや地域障害職業センターに問い合わせることが大切です。最近では、民間の職業紹介業の中にも障害者に特化した事業所がありますから、利用するといいでしょう。ただし、助成金目当ての悪質なエージェントが問題になっていますので、実績のある事業所を選ぶようにしましょう。